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学生時代のエピソード(松本 沙羅)

  • 2023年12月01日

 私の専門はスポーツコーチング学です。専門競技はバスケットボールになります。今年の4月に明星大学に就任した私ですが、専門分野の自己紹介も兼ねて、この「つなぐブログ」では、大学教員を目指す原点となった大学時代の話をしたいと思います。私の大学時代を振り返ると思い出すのは、どの場面を切り取ってもバスケットボール競技に打ち込んだ日々の記憶です。とは言っても、何年も前のことなのでだいぶ記憶は薄れていますが、自分自身の中で何かの変化が起きた時のエピソードの記憶というのは不思議で鮮明に残っていたりするものです。

 大学への入学とともに上京した私は、関東のバスケットボールのレベルの高さに圧倒されたのを覚えています。シュートがロボットかのように高確率で入る先輩、ガンダムかと思うくらい身体が強い先輩、足が速く俊敏すぎる先輩、そして高校全国大会に出場した経験を持つ同期たちに囲まれている、そんな環境でした。5月の大学に入学して初めての公式戦、エントリーメンバーが発表され、私は選ばれませんでした。私が、なんて能力なんだ、と感じた上級生の先輩でもメンバーに選ばれないことがある、シビアな世界です。身長、体格、身体的能力、筋力、技術、経験値、、、上には上がいるんだなあと18歳ながらに痛感しました。

 公式戦当日、メンバーに選ばれなかった選手は、エントリーメンバーとは異なるスケジュールで動きます。試合で体を動かすことができないので、朝7時から9時で朝練習をして体を動かすところから1日が始まります。私が6時に体育館に着き、ストレッチをしていると、2階のランニングコースでダッシュを何本も繰り返し行なっている、上級生のA先輩の姿がありました。その後、あがった息を整えながらジョグを30分間して、シュートを打って、朝7時からの練習に参加していました。そのA先輩の姿を見た時、朝7時からの練習でいっぱい一杯だった私は、シンプルに「凄いなあ」と思いました。朝練習が終わると、9時半からエントリーメンバーの朝シューティングのサポートをして、その後、試合の準備をして、会場へ応援に向かい、試合終了後、部員全員が住んでいる合宿寮に帰ってくる、そんな1日の流れでした。長い1日がやっと終わった、、、と思っていると、A先輩が外出するところに出くわしました。手にはバスケットシューズを持っていて、私に一言、「体育館行くよ」と言いました。私は、まぢか、、、と衝撃を受けたのを覚えています。朝早起きして寮に帰ってきたのは夜7時を過ぎていて、体はヘトヘト、「今からですか?!」というのが本音でした。渋々、体育館へ行くと、A先輩は自分の自主練に私を混ぜてくれて、一緒にラントレやドリブル練習、シューティングをしました。とても意味のある充実した時間でした。私一人では絶対にやらなかった、できなかった時間の過ごし方をA先輩に教わった気がします。こういう時間の費やし方をしている人だからこそ滲み出る精神的なタフさやプレイの強さがあるんだなと理解しました。同時に、私がもとから持っていた当たり前の価値観「自分の物差し」はとても短かったことに気づかされました。能力や個性が人によって違うのだとしても、違うからこそ、現状でみんなと横並びでチーム練習をしているだけで満足してはダメだよ、とお尻を叩かれたようでした。その衝撃のおかげで自分自身の中で何かの変化が起きたことを今でも記憶しています。

 学問の言葉を借りてこのエピソードを捉えるなら、まさに「洗練された技術の多くは、先天的に生まれながらにもつ能力よりも、後天的な努力や習慣によって身につく」です。何かに熟練した人になるためには、生まれつきの遺伝的な素質に依存するのではなく、目標達成に向けて計画された質の高い練習の蓄積が重要であることが明らかになっています。そして、もうひとつに「目標に近づこうと努力するときには自分が変えられるものに目を向ける志向を持つ必要がある」です。エントリーメンバーを決める監督の采配は、私には変えられないものだけれど、A先輩のように自分に足りないものを自主練習するという私自身の今からの行動は変えられる、そんな目標志向性の要素が含まれていたように感じます。こんな風に現場で起きたリアルな感情やひとつの成功事象や失敗事象に着目して、言葉で理論的に説明されている所が、私がスポーツコーチング学にのめり込む一つの理由でもあります。

 自分にはない価値観や感覚を教えてくれるのはいつでも周りの人の存在です。人と関わり、人から自分にはない何かを吸収することは自分の中の当たり前を一度壊し、「自分の物差し」を長くしてくれる、自分の可能性を広げてくれるものだと思います。大学という場所は、まさに多くの人と関われる場所です。ぜひ、大学生の皆さんは今の時間を大切に、現状やれるかではなく、やってみたいと思う何かに飛び込み、挑戦して苦悩も喜びもたくさん経験してください。私自身も皆さんと共に挑戦し続けたいと思います。