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ジャンヌ・ダルクの顔ってどんな顔?(上田耕造)

  • 2023年08月01日

 みなさん、ジャンヌ・ダルクをご存知ですか? 世界史の教科書にも登場する人物ですし、彼女の人生が映画化されてもいるのでご存知の方も多いのではないでしょうか。日本では、舞台で彼女の人生が演じられたり、漫画(最新のものでは山岸京子『レベレーション』)にもなったりしています。また、聞いたところによると、ゲームのキャラクターとしてもジャンヌは登場するとか…。

絵画1 ドミニク・アングル作『ランス大聖堂でのシャルル7世戴冠式におけるジャンヌ・ダルク』(1854年)

 ジャンヌ・ダルクは1412年にドンレミ村で生まれました。農民の娘です。そして1431年に、わずか19歳で亡くなります。歴史の表舞台に現れたのは1429年のこと。当時、フランスはイングランドといわゆる「百年戦争」をしており、劣勢の立場に立たされていました。ここで登場するのがジャンヌ・ダルクです。彼女は神の声を聞く預言者でした。その声に従い、ジャンヌはイングランド軍との戦いに参加し、フランス軍を勝利に導きました(ただ、ジャンヌが戦場でどれほどの影響力を持っていたのかは、検討の余地有りです)。しかし、その後の戦闘でジャンヌは捕虜となり、イングランド人たちのもとで異端審問にかけられることになります。当時、異端者は悪魔の使者と考えられていました。悪魔は異端者を使って社会の秩序を乱します。つまり、ジャンヌが聞いた声は、神の声ではなく悪魔の声ではないか。こうしたことが異端審問では問われました。ジャンヌが神の使者だとすると、イングランド軍はフランス軍に勝てません。フランス軍には、なんせ神の使者がついていますから。でも、ジャンヌが悪魔の使者であれば、イングランド側にも勝ち目は出てきます。こうした意図もあり、最終的にジャンには異端の判決がくだされました。異端者は火刑に処されることが決まっていたので、ジャンヌも火刑に処されました。

 さて、こうした悲劇のヒロインであるジャンヌは、一体どのような顔をしていたのでしょうか? ジャンヌの描いた絵画として、おそらく最も有名なのは、ドミニク・アングル作の絵画だと思います(絵画1)。色白で凛とした顔をしています。しかし、これはジャンヌが死去して400年ほど経った1854年に作成された絵画で、当然ジャンヌの姿を見て描かれた作品ではありません。それでは、ジャンヌが生きていた時代に描かれた絵画はないのでしょうか? 実は一点だけあります。1429年にジャンヌがオルレアンで活躍していた時に、パリ高等法院の書記官であったクレマン・ド・フォーカンベルグが、作成していた文書の余白にジャンヌの似顔絵を描きました(絵画2)。さて、上記の説明でもわかると思いますが、実はフォーカンベルグも、ジャンヌの姿を実際に見てこの絵を描いたわけではありません。彼はずっとパリで仕事をしていました。当時、預言者ジャンヌの噂は、フランス中に広まっていました。フォーカンベルクはその噂を聞き、ジャンヌの姿を想像しながらこの絵を描いたのでしょう。その証拠に、当時ジャンヌは髪を短く切っていました。絵画2では、髪は長く三つ編みになっています。また、当時ジャンヌはスカートではなく、ズボンを履いていました。女性というイメージからこうした髪型や服装になったのでしょう。つまり、現時点で実際にジャンヌの姿を見て描かれた絵画はありません。映画や舞台で様々な女優がジャンヌを演じ、また漫画などでは、様々な容姿で描かれるジャンヌですが、その本当の顔は謎なのです。

絵画2

 壮絶な人生とこうした謎を秘めた部分がジャンヌの魅力であり、今でも多くの人々を惹きつけています。