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花めぐり(清水文直)

  • 2024年07月01日

 山歩きの楽しみは、山頂からの絶景を眺めることだけではなく、山域に咲く花を観ることもその一つである。ただ、山歩きで花を観ることのできる時期はかなり限られるので、麓でも花を観たいと思い、桜や桃、杏の花についても、開花時期には足を運ぶようにしている。
 カレンダーに添って順を追ってみると、比較的早い時期に花を咲かせるのは梅、ロウバイ(蝋梅)、マンサク(万作)、セツブンソウ(節分草)などがあげられる。
 本学の構内にもマンサクの木が植えられているのをご存じだろうか。マンサクの花は中心部が赤色で、その周りに黄色の髭のような細い花弁を持っている。今年も2月初めに26号館付近で咲いているのを確認しているが、花数はかなり少なかったように思う。セツブンソウは、その名の通り、節分の頃に咲くのでこの名が付いたとされる。石灰の地質を好み、群馬県の石灰岩を産出する地域に多く群生するようで、高さ10~15cmほどで直径3~4cmの白色の花を咲かせる。
 4月~5月に山域の早春を彩る花の一つにアカヤシオがある。山域では、山全体が冬から目覚めていない時期に咲くので、ひと際その色が目立つ花である。つつじの仲間であり、花は赤色というよりもピンク色の花を咲かせる。濃いピンク色と淡いピンク色の木があるようで、葉は花が咲き終わった後に芽を出す。奥日光でアカヤシオが終盤になって来ると、ミツバツツジ(葉が3枚なので三葉ツツジという。花は赤紫色。)、シロヤシオ(五葉ツツジともいわれ、白色の花を咲かせる。)、アズマシャクナゲ(枝の先端に直径4~5㎝の淡い紅色の花を5~7個程度咲かせる。白色の花も見かける。)へとバトンが受け渡されていく。
 東北の山では、2,000m以下の山であっても雪が多く残るために、花を観ることができるのは6月に入ってからになる。奥羽山脈に位置する焼石岳と栗駒山は花の山として知られている。6月上旬の時期であれば麓から、タムシバ、ムシカリ、ショウジョウバカマ、シラネアオイ、ハクサンチドリ、ムラサキヤシオツツジ、ヒナザクラ、イワカガミなどが咲く。焼石岳では、標高が上がるにつれて雪解け水を得ることで、水芭蕉やリュウキンカが観られるようになり、山頂付近のお花畑では白色のハクサンイチゲが一面に咲く光景を観ることができる。このお花畑では、赤色のヨツバシオガマがアクセントとなって綺麗である。また、ここにはハクサンコザクラとは別種のユキワリコザクラも咲くが、その数はわずかである。おそらく、盗掘の影響があると思われる。
 7月になると高山植物は最盛期となり、2,000mを越える山でも花が観られるようになる。ニッコウキスゲ、コバイケイソウ、ウサギギク、ハクサンイチゲ、ミヤマダイコンソウ、ミヤマキンポウゲ、ナナカマド、ハクサンシャクナゲなどが咲く。残雪が消えた後にはチングルマが群生し、早めに咲いたチングルマは果穂になっているものもある。8月になると、麓では夏の花であるヒマワリなどが盛りであるが、高山植物は終盤となり、ミヤマアキノキリンソウなどが咲くようになると、山の短い花の時期は終わりを告げることとなる。

 さて、花の咲く時期について、以前は、ほぼ毎年同じ時期と考えれば良かったのだが、最近は花の咲く時期を予想することが難しくなってきている。これは地球温暖化の影響である可能性が考えられる。今年の東京の桜の開花予想は、気象庁は当初3月17日としていたが、次第に後ろへとずれ込んでいき、結局実際に咲いたのは3月29日であり、2週間近くも予想にずれが生じることとなった。また、3月に入ってから南岸低気圧が何度か日本列島を通過することがあった。低気圧が南にずれるか北に位置するかで天候が左右されるようだが、降雪することが何度かあり、桜の開花時期に影響を与えたものと思われる。地球温暖化による影響であろうか。
 地球温暖化は海面温度にも影響する。すると偏西風の吹く軌道にも影響を与え、それから生じる気候変動によって、花の開花時期にも影響するようである。開花時期の予想は、これからますます難しくなっていくものと思われる。

地球の平均表面温度は、ステファン・ボルツマンの法則(物体の放射エネルギーは表面温度の4乗に比例する、というもの)に従って計算すると255K(-18℃)という値が導かれる。だが、実測温度は33Kも高い288K(15℃)であるとされている。この理由は、元々地球には対流圏の上層に温暖化ガス層があって、温室効果という機能が地球に備わっているからである。温室効果が備わっていなかったら、人類を始めとする地球上の動植物の繁栄はなかったのである。ところが、産業革命以後の地球上では、社会産業の発展や生活の向上のために、化石燃料を燃やし続けることでそのエネルギーを得てきた。そのため、温暖化ガス層の二酸化炭素が増加し続け、現在問題となっているのが「地球温暖化」である。

奥日光の早春を彩るアカヤシオ。数年に一度、このように多くの花を咲かせる。

写真奥、霧に霞んで見えているのが焼石岳である。一面に咲くハクサンイチゲは見事である。
ところどころ赤色のヨツバシオガマがアクセントになっている。