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ミュンヘンにて(清田洋一)

  • 2022年05月01日

2018年の夏、大学の特別研究員の機会を利用して、イタリアの北部、ドイツのミュンヘン、ロンドンの教育施設を訪問しました。この訪問の目的の一つに、近年研究テーマにしている「美術館や博物館を活用した言語学習」についてヒントを得ることがありました。その訪問先の一つであるミュンヘンのエピソードを書きます。

週末のミュンヘンは、旅行者は美術館巡りか、コインランドリーでの洗濯ぐらいしかやることがありません。なぜなら、ほとんどのお店が閉まってしまうからです。私は平日はミュンヘン大学で英語の教師の養成を目指した授業に参加していたので、週末は溜まった洗濯物を片付けた後、周辺の史跡や博物館を回りました。

ミュンヘンはたくさんの美術館や史跡のある素敵な街ですが、負の遺産もあります。それはヒットラー率いるナチスが生まれた地域であるということです。ある土曜日にはミュンヘン近郊にあるダッハウ強制収容所跡を訪ねました。ダッハウはドイツ国内で最初に建てられた強制収容所で、その後の他の施設のモデルになったものです。スタッフの話によると、どうやらバイエルン州の学校(たぶん高校)は社会科見学として、この強制収容所跡への訪問が義務づけられているようです。

その翌日はNSドキュメンタリーセンター・ミュンヘンというナチスの記録センターとその周辺の史跡を訪れました。この記録センターはナチスの党本部跡地に建てられ、すぐ横には現在は音楽大学の一部として使われている元総統官邸があります。記録センターは2015年に建てられたもので、建てるにあたって色々議論があったようです。こちらも利用者の学習用の施設が充実していました。両方の施設を訪れると、「なぜナチスのような政治組織が生まれたのか」「このような惨事を2度と起こさないためには、私たちは何をすべきなのか」という問いが自然に生まれてきます。ドイツではこのような施設を通して、自分達の負の歴史に今もきちんと向き合っていることがわかります。ミュンヘン大学の英語の教師育成課程では、言語教育におけるGlobal Citizenship Education(地球市民教育)を重要視した研究を行っていて、その背景が少し理解できたように思えました。

写真はミュンヘン大学(本校舎)の入り口には、戦争に関連したあるモニュメントです。これは数枚のチラシの形式のタイルで、1943年に「白バラ Die Weiße Rose」という非暴力のレジスタンス運動をして捕まったミュンヘン大学の学生たちを記念したものです。学生たちはこのチラシを大学校内で撒いている際に捕まり、断頭台で処刑されました。学内にはその資料室もあり、国内外の学生が訪れています。大学で教科書の歴史を研究しているLuiszさん(小学校の現職教師)が、このモニュメントを案内してくれました。ミュンヘンという街を訪れて、言語教育がその背景として歴史と社会をきちんと向き合う必要性をあらためて考えました。

1943年に「白バラ Die Weiße Rose」という非暴力のレジスタンス運動をして捕まったミュンヘン大学の学生たちを記念したモニュメント