全学共通教育委員会の教員を中心とした研究成果を学内外に広く紹介するために、毎年度公開講座を開催しています。年度ごとにテーマを決めて、原則として3回の連続講座の形で実施します。
2020年度は、本委員会ならびに本学人文学部国際コミュニケーション学科の教員が近現代中国の文化をテーマとして、オンデマンドの形で講義を行いました。講師と内容は以下の通りです。
厳しい政治的検閲のもと、中国の文化大革命期のいわゆる芸術“作品”のほとんどは芸術性を著しく欠くものか、芸術性皆無のものであった。一方、プロパガンダが目的でありながら、普遍的芸術性が認められる作品も存在する。芸術性ゆえ、一部の作品は今日に至っても内外から評価されている。
ピアノ協奏曲「黄河」がその一例である。同作はソナタ形式を排除しながらも、伝統の協奏曲に則って、最初と最後にテンポの速い楽章を置き、中間にテンポの遅い楽章を置く構成となっている。
もう一つの例として、バレエ「赤色女子中隊」が挙げられる。このバレエにおいては、チャイコフスキーの「白鳥の湖」を思わせる振り付けや、「くるみ割り人形」を思わせる民族舞踊が導入されているほか、音楽も古典様式が生かされている。その特徴の一つが、リヒャルト・ワーグナーが楽劇において多用する手法として知られるモチーフの導入である。また、調性も最大限に活用されている。イデオロギーを超越した解釈の多面性を内包した普遍的芸術性が、これらの作品が評価され続ける要因ではないだろうか。
中央大学大学院文学研究科国文学専攻博士課程単位取得満期退学(文学修士)。中国中央財政経済大学助教、昭和薬科大学、早稲田大学、大東文化大学非常勤講師、いわき明星大学人文学部教授を経て、現在本学教育学部教授。研究領域は中国史、中国思想等。
のちに中華民国初代教育総長(=文部科学大臣)となる蔡元培(1868~1940)が1904年2月(光緒30年正月)に書いた「新年夢」は、主人公が正月に見た夢という形を借りて、理想の新中国を描いた一種のユートピア小説である。
ロシア王朝を打倒しロシア革命に導き、侵攻するヨーロッパ諸国を圧倒した新中国は、アメリカと新生ロシアと協力し「万国公法裁判所」と「世界軍」を創設する。じきに世界から戦争が消え、文明は頂点に達し、姓名などはなくなり人は番号で呼ばれ、子どもや老人は社会全体で養育され、夫婦という名称もなくなり、やがて犯罪者もいなくなり法律や裁判所も廃止される。新中国で創始された言葉が世界言語となり、国境は廃止され、世界一丸となって自然を制御し気候を安定させ、宇宙に植民地を建設することこそが地球人の目指すべき目標となっていく。
この小説は、当時清朝打倒の革命運動に身を投じていた蔡元培の思想を反映したものであり、実に興味深いものがある。
※吉川榮一先生のご講演動画につきましては、著作権の関係上非公開とさせていただきます。ご了承ください。
東京大学大学院人文学研究科単位取得満期退学(文学修士)。熊本大学大学院社会文化科学研究科教授を経て、本学教育学部教授。2022年3月に本学を定年退職。中国近現代文学および清朝末期の思想状況が主要な研究対象。
本講座は、国際交流基金により実施された7回分(1998~2018年度)の「海外日本語教育機関調査」データに基づき、日本語教育の機関数、教師数、学習者数、学習目的などの面から、この20年における中国の日本語教育の発展と現状を概観した上で、大学での日本語専攻の現状と抱えている課題について説明する。
2018年度の調査では、中国の日本語教育機関数は2,435カ所で、全世界の13%を占めている。日本語教師数は20,220人で、全世界の26.2%を占め1位となる。日本語学習者数は再び100万人を超え、全世界の26.1%を占め1位となる。
この20年間で、日本語教育機関数は2.2倍に、教師数は3.9倍に、学習者数が4倍強にそれぞれ増えており、学習者の学習動機も多様化してきている。
2018年に「外国語言文学類教育の国家基準」が公表され、2020年春に「大学本科の外国語言文学類専攻教学指南」が公表されている。中国の日本語教育は「転換期」を経て、今まさに「新時代」に突入している。
九州大学大学院比較社会文化学府日本社会文化専攻(比較社会文化学博士)。中国遼寧師範大学日本語教師を経て、現在本学人文学部准教授(国際コミュニケーション学科所属)。研究内容は、コーパス分析に基づいた日本語類義表現分析、日中言語対照研究、中国人の日本語習得研究、日中韓の対人関係調整における言語行動比較。