かなり前のことになりますが、2013年、仕事で知り合った某出版社の編集者から「一緒に北朝鮮に行きませんか?」と誘われました。仮にも朝鮮を専門とする 研究者たる者、この機会を逃す手はないということで、行って参りました。ここでは、私が会った北朝鮮の人々についてお話したいと思います。
まず、北京から(日本からの直行便はないので)の高麗航空のCAのお姉さん。私は飛行機が趣味で、空港では何時間待たされようが飛行機さえ見えていれば幸せな人なのですが、経験上、世界中どこの航空会社でも飛行機好きの乗客はCAさんに厚遇されます。とはいえ、やはり高麗航空。若干の緊張感をもって話しかけてみたのですが、心配は杞憂に終わりました。その日の機体がロシア製の最新型だったこともあり、その話題ですっかり盛り上がってしまいました。
次に、我々 一行を担当してくれたあちらの案内役(兼監視役?)の女性。彼女は夫とともに平壌外国語大学卒のスーパーエリートで、彼女は日本語、夫は英語を専攻し、それぞれ両国からの訪問者を担当する部局にいるのですが、「最近は日本ともアメ リカとも関係が良くないので、周りの目が冷たい」とこぼしていました。さらに 「夫があまり子育てを手伝ってくれない」とグチを聞かされました。そんなこと言われても困りますが、いずこも同じですねえ。
それから、外国人が来るとよく 見学に連れて行かれる小学校の子供たち。写真のように、満面の笑みで歌とダン スを披露してくれました。我々の感覚ではちょっと引いてしまいそうでしたが、 話を聞いてみると、これは日本で言うところの「部活」の一環で、結構人気があってなかなか入れないそうです。無理矢理やらされているわけではないのですね。この子供達にも話しかけてみたのですが、これが通じない。すがるような目で先生を見て、声には出さねど「このおじさん、何を言っているのかわかりません」と訴えています。すると、先生は大人なのでこちらのつたない朝鮮語を必死に頑張って理解し、子供たちに「通訳」してあげていました。心が折れました (笑)。
このように、色々な人に会いましたが、実際に体験して思ったのは、当 たり前ですが北朝鮮でも普通の人々が普通に生活しているということでした。もちろん、平壌は特殊な都市なので、これが北の人たちの標準的な姿とは言いがたいでしょう。でも、テレビで時折見かける「金正恩さまのおかげで私達は幸せです」的な発言をしている「異様な」人たちばかりがいる社会ではないことはよくわかりました。すり込まれたステレオタイプは信用してはいけません。「百聞は 一見にしかず」という言葉を噛みしめることになった旅でした。