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バッハとの再会(鈴木時男)

  • 2024年09月16日
1746年にバッハが友人に描いてもらった肖像画
J.S. Bach als Thomaskantor zu Leipzig(Altes Rathaus, Leipzig)

 前回のブログ「私のドイツ語修行」で説明しましたが、私はオーストラリアのシドニーで当時の西ドイツの学生たちと知り合い、中でもバッハ(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)の作品特に「カンタータ」の演奏から強い影響を受けました。「カンタータ」とは本来「歌われるもの」というイタリア語ですが、バッハの時代のドイツ福音教会などで演奏された、声楽ソリスト、合唱、そして器楽パートによる宗教曲ないし世俗曲を意味します。
 小学生だった頃、私はピアノのレッスンを受けていたのですが、「2声のインベンション」が苦手であり、バッハの作品からは遠ざかっておりました。シドニーでは、ドイツ人学生たちと共に大学の合唱団に属して、いくつかのカンタータを演奏するうちに、「各パートが対等に協力して作り上げる音楽」に美しさを感じるようになりました。「2声のインベンション」でも右手と左手が同様に動く必要がありますが、それには気づかなかったわけです。


 シドニーから日本に戻り、明星大学の青梅校に勤務するようになっても、同校の教職員、学生諸君や地域社会の方々と共に、バッハのカンタータを演奏することが続きました。楽譜を分析し、参考文献を読むうちに、「バッハの音楽の持つシンボル性」が明らかとなりました。たとえば、カンタータ30番BWV30の第6曲の合唱バスパートに以下の旋律が最後に現れます。

 このカンタータは「洗礼者ヨハネ」、つまり新約聖書のルカによる福音書などに書かれた、救世主イエスの降臨を預言し、イエス自身に洗礼を授けた人物に関するものです。第6曲の歌詞は旧約聖書イザヤ書40:4-5に基づいており、この部分は「すべての谷は高くなり、山々(die Berge)は低くなります(niedrig stehen)」という内容です。dassは神の意志を示します。die Bergeに対応する上行旋律、niedrigに対応する下行旋律が印象的です。

 さらに、「十字架の音型」が現れています。rigとsteの音符を結び、niedとhenの音符を結ぶと、交わる線分になるからです。「十字架の音型」は、バッハの信仰の深さを示すものとして、彼の作品で多用されています。このカンタータの第3曲のバスソリストのアリアは、洗礼者ヨハネによる神の讃美に関する内容ですが、47小節から49小節の「神を讃えなさい(gelobet sei Gott)」でもこの音型が現れます。

 これ以外にも、バッハに特徴的な和声進行などもありますが、今回はこれくらいにしておきましょう。タイトル画は、1746年に友人に描いてもらった肖像画です。6声のカノンBWV1076で使われた3つのテーマを手に持っています。当時の習慣として、描かれた人物の職業などを示す必要があったのです。