明星大学

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活動報告

2021年度 公開講座「東日本大震災から10年 明星と震災」をオンライン配信します

  • 2022年02月25日
  • 公開講座

全学共通教育委員会の教員を中心とした研究成果を学内外に広く紹介するために、毎年度公開講座を開催しています。年度ごとにテーマを決めて、原則として3回の連続講座の形で実施します。

2021年度は日本大学工学部生命応用化学科から佐藤健二先生をお招きし、本委員会と本学心理学部心理学科の教員が「東日本大震災から10年 明星と震災」と題して連続講演を行いました。なお本年度も昨年度に引き続き、オンデマンド形式形で配信いたします。それぞれのテーマと講師は以下の通りです。

オンラインカウンセリングの過去と現在 ー東日本大震災とコロナの体験からー

東日本大震災の年(2011年)から約2年間にわたり、いわき明星大(現医療創生大学)のキャンパス内で行われた電子メールを用いた学生相談活動について報告する。この企画は、メールによる学生相談活動の効用や限界を探るため、年限を決めてパイロットスタディ的に行われたものである。

このような実践研究(アクション・リサーチ)を企画した意図であるが、ICT (Information and Communication Technology)ツールを学生相談活動に生かせないかとの思いがあった。当時スマートフォンの普及はまだ圧倒的に少なかったが、PCや携帯電話を中心として、インターネットコミュニケーションツールはすでに学生たちにとってごく日 常的なツールになっていた。学生相談室に足を運ぶ学生はどうしても限られてしまうが、悩みを抱えている学生はキャンパス内にもっと多くいるのではないか、そういった学生の潜在的相談ニーズを掘り起こし、応えてゆくことはできないか、そのような思いからこのメールによる学生相談は企画された。

キャンパス内にメールによる学生相談システムを立ち上げ、東日本大震災直後から約1年半(2011年10月~2013年3月)にわたり運用した。約1年半のシステム運用を通して得られた知見は、①利用促進のための広報活動等の必要性、②匿名相談の抱える倫理的問題及びそれへの対応、③メール相談を行うカウンセラーの確保とスキルアップの問題、④緊急時や危機時の介入の重要性と難しさ、⑤メール相談が書き言葉による支援であることによってもたらされる難しさ、などであった。

2020年から続くコロナ禍においても、ICTツールを用いた遠隔コミュニケーションの有効性が改めて認識されることとなった。Zoomなどの映像送信型ツールを用いた学生相談活動もすでに多く試みられている。しかし、そこで用いられるICT技術は当時とは全く異なったものである。講座の締めくくりとして、ICTを用いた学生相談の未来(これからの在り方)についても考察を行った。

富田 新(とみだ あらた)

東北大学大学院文学研究科博士課程後期3年の課程単位取得退学(文学修士)。東北大学文学部助手(心理学研究室)、いわき明星大学人文学部心理学科教授を経て現在、本学心理学部教授。研究領域は認知心理学(パターン認識)、応用心理学(キーボードのユーザビ リティ評価等)、臨床心理学(学生相談、スクールカウンセリング)。

原発事故から10年、放射性物質による影響評価と課題

2011年3月11日に発生した東日本大震災と津波によって引き起こされ福島第一原子力発電所(福島第一原発)事故から今年で11年目を迎える。当時、福島第一原発から約50km離れた福島県いわき市にあるいわき明星大学では、いち早く「いわき地域復興センター」を立ち上げ放射線・放射能に関する環境測定や地域活動を精力的に実施した。

本講座では、最初に復興センターの具体的な活動を紹介すると共に事故後から現在に至るまでの放射性セシウム濃度の経年変化などについて説明する。次に、2021年までの農林水産物の放射線モニタリング検査結果や避難区域の変遷、そして、諸外国・地域による食品の輸入規制など放射線と食の安全との関係、さらには情報共有の場としてのリスクコミュニケーションの必要性について説明する。

佐藤 健二(さとう けんじ)

明星大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程単位取得満期退学(理学博士)。いわき明星大学理工学部助手、科学技術学部教授を経て、現在、日本大学工学部生命応用化学科教授。専門分野は分析化学、主な研究テーマは、違法薬物・毒キノコの簡易鑑定・判別法、RoSHスクリーニング分析法、放射性Csの沈積と経年変化など。

海藻が教えてくれた:原発事故からの海の復活

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴った福島第一原子力発電所事故により、環境中に大量の放射性物質が放出された。放射性物質による生態系への影響は事故発生当初から懸念され、水産業が盛んな東北地方沿岸では、特に海洋環境中における放射性物質の動態の把握と、除去が喫緊の課題となった。

沿岸部において太陽光が十分に透入する浅海部には、岩礁などに着生して生活を行う海藻類が生育している。海藻類は根を持たず、生長時に海藻表面から海水中に溶け込んでいる栄養塩類や無機物を直接吸収する。また、放射性物質を藻体内に蓄積する性質も持つており、その濃度を測定することで、海藻が生育する場所の海水中の放射性物質の濃度を推定することができる。

本講演では、放射性物質流出事故直後から8年間にわたる海藻類の調査結果を報告する。経時的に放射性物質による汚染から海が復活する過程を、海藻が教えてくれる内容となっている。

佐々木 秀明(ささき ひであき)

熊本大学理学部卒業、神戸大学大学院自然科学研究科修了 博士(理学)。神戸大学遺伝子実験センター教務補佐員、いわき明星大学科学技術学部准教授を経て、現在、本学全学共通教育教授。専門分野は藻類学、微生物生理学。